臨床疫学:エビデンスに基づく動物医療―診療方針の決定のために―(サンダース ベテリナリー クリニクスシリーズ 3-3)

臨床系の論文集として定評のあるVeterinary Clinics of North Americaシリーズの訳書です。原著が出てからそれほど時間も経っていないので、文献的価値も高いでしょう。
EBM(Evidence-Based Medicine / エビデンスに基づく医療)は 問題の定式化 に始まり、情報の検索、批判的吟味、治療(診断)法の適用、およびそれらによる 結果のフィードバック という5段階で構成されますが、本書ではそれらの子細に渡る解説から始まり、特に中心的存在である批判的吟味を行うための情報が丁寧に述べられています。また最後の3章では「猫の下部尿路疾患」「創傷管理」「血栓塞栓症」について、エビデンスに基づいたレビューを展開しており、EBM実践の実例が理解できるようになっています。
本書で特筆すべきは、情報検索の項目の新しさ(RSSフィードの使用まで紹介されている!)、統計手法の説明(親切なことに、研究デザインの立て方からカイ二乗検定やt検定の使い方まで)、決定分析という診療に密着した判断方法の紹介(要は正しいエビデンスの使い方)などで、それらについては人医療におけるEBMの参考書にも引けを取りません。統計の教科書などとは異なり、非常にわかりやすく説明してあるので、途中で脱落せず読破できるでしょう。その反面、断言口調になってしまい、厳密には「そこまで言ってしまっていいのかな?」と思うような箇所もあったりしますが、臨床疫学の専門家でもなければ気にするほどのものではありません。
2006年に同じく浅野先生が監訳された『エビデンスに基づく獣医療―最新かつ最良の診療方針を決定するために』(下で紹介)では、少々難解な表現や古い情報もあり、誰もが読むというには敷居の高いものでしたが、本書は誰でも気軽に読み始めることができるので、卒論の研究デザインに悩んでいる学生から、日和見の診療から脱したい臨床家まで、獣医師として1歩先に進むには最適の1冊です(kimu)。

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