啓蒙書:自分の小さな「箱」から脱出する方法

マネジメント、リーダーシップについて、得るところが大きい書籍です。
マネジメントには、真摯さという資質が重要な要件として求められます。資質と表現しましたが、真摯さは、ある意味では生来から限られてしまう性格、ないしは環境によるところが大きいのかもしれません。しかしながら、一方で裏を言えば、性格や環境というのは、産まれてからのこころがけで改善できることでもあります。
そのこころがけとは、一個人として組織の当事者であり、周囲に自分自身の正確な意思を伝達し、お互いに影響を与え合っていくのだという覚悟です。いうなれば、リーダーシップです。
この書籍は、リーダーシップを発揮するにあたり、人が自分自身の意思で作ってしまいがちな「箱」の中に入り込まないようにすることを、複数の登場人物によるレクチャー形式で伝えていきます。このレクチャーは、普段からコミュニケーションをしている相手を尊重するために再度にわたり行われます。尊重の前提となるのは「素の自分」です。自分を見つめ、掘り下げていく対話を繰り返し「素の自分」を発見していきます。自己と他者(同僚、上司、部下、妻、子供等)との人間関係を見つめながら、「箱」という概念を理解していきます。
端的に「箱」とは何かというと・・・、「自分への裏切り」や「自己欺瞞」のことです。「箱」に入ってしまったとき、人はリーダーシップの発揮どころではなくて、人間関係を円滑にする機会を自ら放棄しています。「『箱』の中にいる状況がどういうものか?」というのは、この書籍を読み進めながら、身に染み込むように感じることができます。なぜなら、誰しも過去にあったであろう状況を登場人物が演じてくれるからです。
特に、獣医師として、この書籍を身近に感じ、面白いと思えるのは、19世紀の医師、ゼンメルヴァイス(ゼンメルワイス: Semmelweis)が発見した産褥熱の防疫方法の逸話です。彼の真摯な姿勢により、彼はその時代に人々が見えなかったことがらを見つけることができました。そのことによって、疫学的に大きな飛躍を組織にもたらしたのです。医療関係者の真摯さの重要性について、読者が深く考える機会を与えてくれます。獣医師も真摯さを失わず、周囲への影響力を発揮し、十分に専門性を発揮したいところです。
円滑な人間関係はマネジメントの実践にとって重要な資本です。「自分への裏切り」や「自己欺瞞」という「箱」に陥ることなく、マネジメントを実践していきましょう。(松井 匠作)

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