公衆衛生:感染地図―歴史を変えた未知の病原体

スティーヴン・ジョンソン 河出書房新社 2007
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本書は、1800年代半ばにロンドンで発生したコレラ禍において、いかに人々がその疫病に立ち向かい、都市としての機能や安全を維持してきたのかを述べた、ある種のドキュメンタリーです。

この中心人物のひとりであるジョン・スノー医師の活躍は、疫学の先見事例として教科書でもよく取り上げられており、感染による死者の分布から感染源を探り当てたということで、彼の作成した感染地図はよく知られています。しかし、記述統計から感染地図を描いたことは彼の功績の一部でしかなく、未だコレラ菌の存在が(彼を含め学術界全般に)認知されていない中で、当時趨勢を誇っていた瘴気説を否定して「水」への注意を喚起した点こそが真に重要である――ということが、本書では丁寧に述べられています。
そして、人口の集中する都市の意味を示した上で、視点を現在に転じ、19世紀のロンドン以上に多くの人々が住んでいる現在の都市では、果たしてどのような点を考慮すべきであるのか、ソーシャルメディアが発展した社会における、新たな危機管理のあり方も考察しています。これはごく初期の疫学で原因究明に尽力した人物たちがどのように考え、行動し、解決に至ったのかを学ぶことから、現在における対応にも思いを馳せる、示唆的な試みです(kimu)

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