公衆衛生:医師ゼンメルワイスの悲劇―今日の医療改革への提言

南 和嘉男 講談社 1988
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本書がとりあげるゼンメルワイスは、1800年代末期に産褥熱の予防法を追究し、処置前の手洗いを励行することで実際にその死亡率を下げ、後の世にその重要性を知らしめた人物です。また後半では、虫垂炎の早期診断・手術を訴えたマーフィーについても紹介されています。

著者がゼンメルワイスの熱心なファンであったためか、最近のトンデモ医療推進者による記載を読むのにも似た読後感を覚えます。しかし、彼らとゼンメルワイスとが違うのは、疫学的にきっちりと調べ上げ、明確な根拠を以て主張したことでしょう。
ゼンメルワイスにしろ、存命中から十分な評価を受けたとは言い難く、必ずしもここに正解例があるというわけではありませんが、新しい概念を打ち出す際にどうするべきなのかを考えるために、本書が良い材料になることと思われます。

副題に「医療改革への提言」と添えており、後半の考察部位では、改革を受け入れられない理由として、体制集団が既得権を守ろうとする卑しい心根を挙げています。しかし、はたして今の時代・条件でもそれだけで説明がつくかどうか、読者個々人がさらに考察する必要があるでしょう。(kimu)

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