口蹄疫(2010)
2010年に宮崎で発生した口蹄疫について、当時まとめた情報です。
口蹄疫とはなにか(簡易まとめ)
口蹄疫(こうていえき, foot and mouth disease)とは、主に牛、水牛、豚、羊、山羊、鹿など、いわゆる偶蹄類(蹄がピースになった動物)に感染する病気です。原因は小さなRNAウイルス で、気象条件によっては200kmほど飛散すると言われています。このウイルスは口腔や気道の粘膜で増え、5-8日で発症します。その時点で既に大量のウ イルスを体外に排出しており(特に豚)、キャリア化といって、それが快復後も持続してしまう場合もあります(牛で最長2.5年)。多頭飼育している環境では接触感染の懸念もあります。
症 状としては急に高熱が出て、口や蹄に小さな潰瘍ができるものの、通常は2-3週間で快復します。しかし、感染することによって成長が悪くなったり、牛乳を 出す量が減ったりすることから、農家に経済的なダメージを与えることになります。それが1頭や2頭なら大したことないかもしれませんが、このように伝染力 が非常に強い疾患では、経済的影響が甚大となってしまいます。さらに、産まれたばかりの動物が死んでしまう確率が高いのも深刻な問題です。また、蔓延して しまうと、貴重な野生動物にも大きな影響を与えることになるでしょう。そのため日本では法定伝染病、国際的にも国際獣疫事務局(OIE)リストA疾病に指定され、蔓延を防ぐための封じ込め策がとられます。
なお、このウイルスは人間に対してほぼ無害です。極稀に人間にも感染しますが、微熱や口内炎程度で済むとされています(日本獣医学会:連続講座)。そもそも現行の制度では、(口蹄疫に限らず)危険な疾患の疑われる家畜は廃棄されるので、心配には値しないでしょう。
- 検査: PCRで疑い症例を挙げ、ELISAで確認。現在実施できるのは動物衛生研究所と横浜の動物検疫所のみ。
- 消毒: アルコールは有効ではありませんが、pHを6.5以下あるいは11以上にすれば感染力を失います(プレスリリース,論文)。消毒剤として4%炭酸ソーダ液(Na2CO3)や消石灰、2%苛性ソーダ(NaOH)、2%苛性カリ(KOH) 、10%ホルマリンが挙げられ(農林水産省,動物衛生研究所)、ビルコンのほか消石灰やハイター、クエン酸などが有効です(消毒液の作り方と使い方-左の農水省資料と同じ )。実際の消毒作業についてはコチラの動画を参照してください。
- 対処: 他の動物への感染源になってしまうので、疑われた時点で全て殺処分とします(疑われた時点で――というのは、検査結果を待っているうちに感染が広まってしまうのを回避するためです)。運搬しようとするとウイルスを撒き散らしてしまう恐れがあるため、と畜場に運んで食用肉に加工したりはできません。できる限 りその場で燃やすか(ただし、数が多いと環境問題になってしまいます)、地中深くに埋め、一定期間は掘り起こすことを禁止します。また、近郊の動物も感染している可能性を考え、周囲には移動制限がかけられます。
- 予防: 症状を抑え、ウイルスの排出を減らすことのできるワクチンが存在します(商品概要)。 ただ、完全に感染を防ぐことができるわけではなく、また、その動物は発症しなくなるために、そこにウイルスがあるかどうかわからなくなってしまいます → 殺処分と埋却作業の滞っている地域があることから、そこからの感染拡大を遅らせて時間を稼ぐために、ワクチンの使用が決定されました。ワクチンを打った動 物は、事態の終息後、ウイルスが存在しないことを証明するために全て殺処分されることになります → ワクチンと自然感染の区別をつけられるマーカーワクチンというものがあれば、ワクチン接種後に殺処分する必要はなくなると期待されていますが、現時点では実用的ではないようで、今後の検討課題です。
- 経路: 現段階ではどこから来たのか判断できません。わかっているのは、韓国や台湾あるいは香港で発生したものと似ているということだけです。中国で発生したもの の詳細が不明であることもあり、必ずしもそこから渡ってきたものとは断定できません。なお、一部で輸入してきた水牛を原因視する噂もありますが、最近輸入された水牛は口蹄疫清浄国であるオーストラリアからのみで、検疫で各種伝染病をもっていないことも確認されてます。
情報源
感染を広げてしまうのを避けるため、マスコミの取材は自粛するよう指示が出ていましたが、公的機関から随時情報が公表されています。
公的機関
- 国の指針や対策・支援については農林水産省に明示されています。例えば、国や都道府県から末端までの動きを含めた対策全般については口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針、家畜共済等の対応については口蹄疫発生に伴う関連対策、他に宮崎県への人的支援の状況についても明示されています。また、風評防止のための小売店舗等における不適切な表示の調査・監視の結果もあります。一般の方向けにつくられたQ&Aは、噂の真偽を確かめるのにも有効でしょう。また、山田農水大臣(当時)のブログはこちら(山田正彦のウィークリーブログ)
- 防疫に関する直接的な権限をもつ宮崎県では、消毒ポイントや相談先が挙げられています。住民や関係者の方は強いストレスを受けますが、そういった場合のこころのケアを目的とした相談窓口もあります。県による口蹄疫対策調査報告書はこちら。東国原知事のブログはこちら(そのまんま日記)
- 宮崎大学には口蹄疫対策本部が設置され、教員から獣医学生まで多数の人員が駆り出されており、家畜衛生学講座からその様子を窺うことができます。
- この感染症に関する詳細や過去の流行情報については動物衛生研究所で入手可能です。
その他に信用度の高い情報源
- 群衆の叡智に頼りたいという方には、有志による口蹄疫@ウィキがあります。ここにはこれまでの経過などがまとめられています。
- コンタンのブログでは、宮崎県などで公表された情報をもとに、処分の進捗具合をまとめたグラフが公開されています。
あなたにできること
- 非常事態においては詐欺の出現も懸念されますので、募金や救援物資を送付する際には、信頼できる相手かよく確認しましょう。ライフハッカーさんが募金先をまとめてくださっています。また、まわりに情報をお持ちでない方がいたら、このページや上に挙げたサイトなどを教えてあげてください。
その他
2016/07/07